大判例

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富山地方裁判所高岡支部 昭和42年(ワ)42号 判決

原告

坂井峯子

外二六名

右代理人

松波淳一

被告

上埜一男

外六名

右代理人

斎藤弥生

主文

一、被告等は、原告等に対し、各自、別紙(二)債権目録記載の各金員を支払え。

二、原告等その余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は被告等の各負担とする。

四、この判決は、主文第一項につき原告ら各自において被告ら各自に対し各金一万五千円の担保をたてたときは仮りに執行することができる。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告等訴訟代理人は、左記の判決並びに仮執行の宣言を求めた。

(一)、被告等は、原告等に対し、連帯して、別紙(一)債権目録記載の各金員を支払え。

(二)、訴訟費用は被告等の負担とする。

二、被告等訴訟代理人は、左記の判決を求めた。

(一)、原告等の請求を棄却する。

(二)、訴訟費用は原告等の負担とする。

第二、原告等の請求の原因

一、原告等は、いずれも、福野編織株式会社(本店所在地富山県東砺波郡福野町二〇七番地、以下「福野編織」という)に勤務する労働者である。

二、(1)被告岩尾吉次、同岩尾外吉、同岩尾正英、同浅香敬は、いずれも、福野編織の取締役であり、被告岩尾吉次がその代表取締役であつたが、後記解雇の日である昭和四一年一二月一九日同被告が右代表取締役の地位を辞任し被告浅香敬が代表取締役に就任した。

(2)、被告勝泉桝三、同浅香敬、同上埜愛子は、いずれも、砺波ニット有限会社(本店所在地富山県小矢部市石動町三の一、以下「砺波ニット」という)の取締役であり、被告勝泉桝三がその代表取締役である(但し浅香敬は昭和四一年一二月二七日に辞任)。

(3)、被告等の身分関係は、次のとおりである。

被告岩尾外吉は、同岩尾吉次、同岩尾正英、同上埜愛子の父。

被告岩尾吉次の妻俊子は、被告上埜一男の妹。

被告上埜一男の妻は、被告上埜愛子。

被告勝泉桝三の妻よし子は、被告上埜一男の妹。

被告浅香敬は、同上埜一男の親友。

〈以下省略〉

理由

一、請求原因一、二項の各事実および原告等が昭和四一年一二月一九日福野編織から全員解雇の通告を受けたことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、原告等は、いずれも右解雇通告の無効を主張し、翌二〇日以後も福野編織において就業せんとしたが、福野編織から右通告を理由に就業を拒否され、それ以後の賃金の支給を受けていないことが認められる。

二、〈証拠〉および弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(イ)、福野編織は、資本金二五〇万円、発行済株式の大部分は被告岩尾吉次、同岩尾外吉、同岩尾正英およびその近親者が所有しているいわゆる同族会社であつて、その従業員数は六〇余名である。

(ロ)、原告河合和子、同大森照、同土江田啓子、同土江田外茂江、同石崎暁美同太田としえ、同藤沢和子の七名は、福野編織における従業員の労働条件の改善を図るため、昭和四一年一一月上旬福野地区労働組合協議会の指導を得て労働組合を結成しようと考え自らその準備委員となり、その頃福野編織の全従業員に対し右組合加入を勧め、多数の加入同意を得るにいたつた。そこで、同月一四日夜労働組合結成大会を開くべく、同日朝原告河合和子、同大森照、同藤沢和子の三名が当時福野編織の代表取締役であつた被告岩尾吉次に労働組合結成通知書を手渡し、組合を結成した旨申入れたところ、同被告から「組合のことは砂田武雄(工程係長、労務担当)を通じてなすように」との回答を得たため、右通知書を右訴外砂田に手渡した。

(ハ)、ところが、同日午前就業後間もなく、福野編織の編立係長である沼田俊信(被告岩尾吉次の従兄弟であり福野編織の株主でもある)は、全従業員を食堂に集めた上、「只今から労働組合を結成する」と宣言し、議長に砂田武雄を指名して、同人をして議事の進行を計らせ、訴外山本津加子(労務経理担当)をして議案、組合規約等を朗読させ、執行委員長その他役員を発表の後、全従業員の食堂からの退去を阻止して組合加入確認書に署名を求めた。その結果、大半の従業員が第一組合に加入した。

(ニ)、しかし、原告河合和子外六名の前記準備委員は、第一組合の結成に不満をいだき、同日午後右七名のみで第二組合を結成し、砺波合同労働組合福野編織支部として発足し、全従業員に第一組合は御用組合であるとしてその不当を訴え、第二組合への加入を勧誘した。その結果、同月二二日ごろには右七名の原告等を除いたその余の原告等二〇余名の加入者を得た。

(ホ)、その間、第二組合は、同一五日富山地方労働委員会に対し第一組合の結成は労働者の労働組合結成に対する会社側の支配介入であるとして不当労働行為救済の申立をなすと共に、福野編織に対し強制残業の廃止、年次有給休暇の実施、年末一時金三ケ月分支給等の実現を求めて団体交渉の開催を要求し、翌一六日砺波労働基準監督署に対し福野編織の強制残業等の労働基準法違反を告発した。

(ヘ)、福野編織は、第二組合の右団体交渉の申入れに応じて第二組合と同年一一月一八日第一回(福野編織側出席者被告岩尾吉次、同岩尾外吉、技術顧問被告上埜一男)の、同月二三日第二回(同出席者前記三名の外被告岩尾吉次の妻であり福野編織の人事担当である岩尾俊子)の、同年一二月五日第三回(同出席者被告岩尾吉次、同上埜一男、同浅香敬)の、同月一三日第四回(同出席者前記三名の外、被告岩尾外吉、同勝泉桝三)の各団体交渉をなしたが、第二組合の要求に対して年末一時金1.5ケ月分プラスアルファーの支給、昭和四二年一月から金一〇〇〇円の賃金値上げを回答したに留り、福野編織が経営不振であることあるいはこれを理由に企業を閉鎖することは何ら触れられていない。一方、第二組合は、福野編織の要求により前記砺波労働基準監督署に対する労働基準法違反の告発を取下げた。

(ト)、ところで、右団体交渉の間に、福野編織は原告らが第二組合を結成したことを嫌い、その活動を阻止しようとの主たる意図の下に同年一二月一九日に、同月一七日設立の有限会社砺波ニット(昭和四二年九月解散)に対し、福野編織所有の一切の土地建物および機械設備(後記機械を除く)を譲渡しまた、その頃、被告岩尾吉次所有の土地建物につき結んでいた賃貸借契約を解除し同月一八日付で右土地建物につき砺波ニットと賃貸借契約を締結させ、更に、福野編織が昭和四〇年末に近藤ミシン株式会社から代金八五〇万円で購入した高性能を有する東独デイアマント社製全自動横編機一台を他に搬出し(右機械はその後被告岩尾外吉が買受けて、現在同被告が経営する協栄編物で稼働している。)、もつて企業閉鎖をし、そうして同月一九日午後五時原告等を含む全従業員に対し、何らの予告もなさず、経営不振のため企業を閉鎖し全員を解雇する旨の通告をなした。(この点に関し、被告等は、福野編織が企業を閉鎖したのは被告岩尾吉次のノイローゼと福野編織の累積赤字である旨主張し前掲証拠によれば、右事実の存することは認められないではないが、前記認定の諸事実と対比するとき、これが福野編織の企業閉鎖の主たる理由であつたとは到底考えられない。)

(チ)、以上のように原告等に対する前記解雇通告は福野編織が原告等の結成した第二組合の活動を嫌いそれを阻止せんとしてなされたものであるから、原告等に対する右解雇通告は労働組合法七条一号の不当労働行為に該当し無効である。従つて、原告等は依然として福野編織の従業員たる地位を有し、昭和四一年一二月二〇日以降の賃金請求権を失つていないものであるところ、福野編織の前記の如き企業閉鎖財産処分により、右賃金債権は事実上満足を受けることができない状態になつている。

三、ところで、被告岩尾吉次、同岩尾外吉、同岩尾正英、同浅香敬はいずれも、福野編織の取締役、被告上埜一男は福野編織の技術顧問、被告浅香敬、被告上埜愛子、同勝泉桝三は、いずれも砺波ニットの取締役であること、および被告らの身分関係からすれば、特段の反証がない以上被告等は福野編織のなした右財産処分企業閉鎖解雇通告の決定に加わつたものと推認するのが相当であり、しかも、右財産処分企業閉鎖は、違法な右解雇通告と密接に結びついた行為である以上、これらの行為により原告等の前記賃金債権の満足を得られなくなつたことは、被告等の共同不法行為による債権侵害というべきである。

よつて、被告等は、各自連帯して原告等に対し、右債権侵害により蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

四、そこで、原告等の損害について判断する。

(一)、財産的損害

昭和四一年一二月二〇日以降の原告らの賃金月額は、労働基準法一二条によつて算出した平均賃金の三〇日分とみるのが相当であるところ、〈証拠〉によれば、原告等の平均月額は、別紙賃金目録記載の各賃金であることが認められるから、原告等は、被告等の共同不法行為により右日時以降右各賃金の給付を侵害され月平均右各賃金相当額の損害を蒙つたものといえる。そして、本訴において右日時から同四二年四月一九日までの四ケ月間賃金相当額の本訴請求金額は被告等の前記認定行為に照らし相当因果関係の範囲内にあるものと考えられる。

(二)、慰藉料

本件全証拠によるも、原告等が被告等の前記認定の行為により慰藉料請求を容認する程度にまで精神的苦痛を受けたとは認め難い。

五、以上の次第で、原告等の本訴請求は、被告等各自に対し、別紙(二)債権目録記載の金員(原告今村、同山田敏江、同北川、同河合和子同石崎、同山田幸子、同五十嵐については本訴において財産的損害として請求する金員の範囲内)の支払を求める範囲内で理由があるので、これを認容し、その余の請求を失当として、棄却することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条九二条九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。(清水次郎 定塚孝司 谷口伸夫)

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